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<インタビュー>売れても売れなくても、とにかく歌い続けたい――突如現れた15歳のシンガー・ソングライター、tuki.は未来に何を想う?

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Interview:Takuto Ueda

 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、この春に中学卒業を控える現在15歳のシンガー・ソングライター、tuki.のインタビューをお届けする。

 13歳の頃にギターを弾き始めたというtuki.は、その後すぐにTikTokで弾き語り投稿を開始。憂いを帯びながらも力強く訴えかけてくるような歌声に魅了されるリスナーが増えていくなか、2023年7月に最初のオリジナル曲「晩餐歌」の弾き語りを公開し、9月にはフルサイズの音源を正式にリリース。楽曲は瞬く間に注目を集め、ビルボードジャパンの総合ソング・チャート“Hot 100”では2023年10月11日付で14位に初登場、そして今年1月24日付でついに総合首位の座についた。そのタイミングでストリーミング累計再生回数は1億回を突破したが、これはソロアーティストとしては同チャート史上最年少の記録となっている。

 そんな「晩餐歌」を含め、現在までに計4曲のシングルをリリースしているtuki.。それぞれの楽曲の制作経緯やリスナーからの反響、そして音楽活動に対する向き合い方、今後の活動の展望など、本人に話を聞いた。

自信作ではなかった「晩餐歌」

――まずは音楽活動を始めたきっかけを教えてください。

tuki.:13歳の頃、ちょうど自粛期間で学校が休みだったこともあって、家にあった父のギターをなんとなく触り始めたことがきっかけだったと思います。でも、幼い頃からピアノを習っていたので、音楽はずっと好きでした。

――音楽が身近にある環境で育ったんですね。家の中ではどんなアーティストの音楽が流れていましたか?

tuki.:両親が好きだったNICO Touches the Wallsはよく聴いていました。私もすごく好きで、ライブにも行ったことがあります。まだ小さい頃だったんですけど、迫力がすごくて感動しました。あと、ピアノを習っていた頃はクラシックを弾いてました。

――最初にギターでコピーした曲って覚えてます?

tuki.:川崎鷹也さんの「魔法の絨毯」だったと思います。




川崎鷹也-魔法の絨毯【OFFICIAL MUSIC VIDEO】


――リスナーとしては普段、どんな音楽の聴き方をしますか?

tuki.:私はアーティストごとに聴くというより、TikTokで流れてきて「いいな」と思った曲を聴くことが多いです。

――tuki.さんもTikTokに演奏動画を上げてますね。

tuki.:TikTokはいつも見ていたので、あくまで趣味の感覚ですけど、自分でも動画を上げてみようかなと思ったんです。なので、こんなに聴いてもらえるようになるとはまったく思っていませんでした。

――ちなみにアーティスト名の由来は?

tuki.:月って神秘的なイメージがあって、個人的にも昔から好きな存在だったので、今の名前にしました。

――オリジナル曲を作り始めたのはいつ頃からですか?

tuki.:小学校6年生の頃だったと思います。

――ギターを弾き始めて、わりとすぐにオリジナルも作り始めたんですね。一番最初に作った曲は覚えてますか?

tuki.:どうだろう…あまり覚えてないですけど…でも、「晩餐歌」はその頃に作り始めていました。私が家で何もせずごろごろしていたとき、父に「人生は3万日ぐらいしかないんだよ」と言われて、自分も「こんなことしてたらダメだな」と思って書いた曲です。

――3万日ってなかなか想像がつかない数字ですよね?

tuki.:でも、自分が生きてきたのが5,000日ぐらいなので、そう考えるとそこまで遠い未来じゃないなと思ったんです。

――例えば今からさらに5,000日後の未来で、tuki.さんはどんな大人になっていたいと思いますか?

tuki.:ずっと音楽に関わる仕事はしたいと思っていました。アーティストに限らず、例えばピアノの先生とか、なんとなく考えていただけなので、今みたいな活動を具体的に想像していたわけではないんですけど、やっぱり音楽が好きだったので。顔を出さずに活動しているのも、そういう考えがあるからなんです。

――自分の楽曲が今、たくさんの人に聴いてもらえている状況だと思うんですけど、そういう想いは変わらず?

tuki.:そうですね。売れていても売れていなくても、とにかく歌い続けたいです。

――顔出しせずに活動されてますが、tuki.としての活動のことは周囲の人には話していないですか?

tuki.:基本的には内緒にしてます。でも、仲の良い友達の中には知っている人もいて、たまに学校でいじられたりします(笑)。そういう人たちは活動を始めた頃から応援してくれていて、すごく支えになっているし、急に曲がバズったときは一緒に驚いてました。

――tuki.さん自身が一番最初に「あれ、バズってるかも?」と感じたのはどんな瞬間でした?

tuki.:自分でTikTokに上げた最初の弾き語り動画がそれまでにないスピードで伸びたので、「これは反応がいいな」と思ったのが最初だと思います。

――「晩餐歌」のヒットによって何か変化したことを挙げるとしたら?

tuki.:音楽との向き合い方は変わった感じがします。今でも趣味感覚でやっていることには変わりないんですけど、やっぱりたくさんの人が聴いてくださっているので、「日頃の生活をもうちょっとちゃんとしないといけないな」とか。

――普段、作詞作曲はどのように進めていますか?

tuki.:「晩餐歌」はギターのコードを組み合わせて、ほぼ同時に歌詞も考えていきました。でも、「⼀輪花」と「サクラキミワタシ」はピアノで作曲しています。

――「晩餐歌」というタイトルはどんなふうに思いついたんですか?

tuki.:美術の授業で『最後の晩餐』を学ぶ機会があり、そのときは“晩餐”という言葉をあまり聞いたことがなかったので気になってしまって。それで調べていたタイミングで、さっきの父の言葉があったので、いろいろ自分の中で組み合わさった感じでした。もともと仮タイトルは「フルコース」だったんです。

――アレンジも含めた完成形の手応えはどのように感じていました?

tuki.:自信作という感じではなかったので、「聴いてもらえるかな?」みたいな感じでした。他にもっと自信のある曲があったので、ちょっと才能ないのかなって思いました(笑)。

――逆に自分が大きな手応えを感じていても、聴いてくれた人が同じように感じるとは限らない。そのあたりは難しい感覚ですよね。実際、「晩餐歌」に関してはどんな反響が届いていますか?

tuki.:すごくいろんな解釈があって、見ていて面白いなと思いました。コメントは大事に読んでます。

――個人的には、配信中の3曲は共通して“別れ”がテーマになっている印象でした。

tuki.:実はあまり意識していなくて。たまたま似通った感じの3曲になってしまったんですけど、まだ発表していない曲には違った雰囲気の曲もあるんです。

――日頃の経験からインスパイアされて曲作りをすることが多いですか?

tuki.:そうですね。日常生活の中で常にヒントを探していて、自分の恋愛とか友達の恋愛、家族の話、アニメ、マンガ、映画とか。

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歌でなら叫べる

――「晩餐歌」のミュージック・ビデオについても聞かせてください。イラストを手掛けたのは出水ぽすか先生(『約束のネバーランド』など)。

tuki.:私が『約束のネバーランド』が大好きで、それを知った父の友人がたまたまつながっていたらしく、サプライズで用意してくれたんです。




tuki.『晩餐歌』Official Music Video


――『約束のネバーランド』のどんなところに魅力を感じていたのでしょう?

tuki.:最初にアニメを見たときは少し怖いイメージだったんですけど、見ていくうちに癖になっていって。ストーリーも面白かったので大好きな作品です。なので、ミュージック・ビデオのことを聞いたときは本当に信じられなくて、めちゃくちゃ嬉しかったです。コメント欄にも書かれていたんですけど、メイド服を着たウサギとか、そのまま『約束のネバーランド』の世界観で。しかも「晩餐歌」にもすごく合っていて、もう本当に大満足って感じです。

――続く2曲目「一輪花」はどんなふうに作っていきましたか?

tuki.:これは『呪術廻戦』のアニメを見て、夏油傑が仲間たちのもとから離れて闇落ちするシーンに心を動かされて作った曲です。そこからメロディーと雰囲気を考えて、歌詞は友人の恋愛話からも影響されながら書いていきました。

――『約束のネバーランド』にしろ『呪術廻戦』にしろ、グロテスクでもあり美しくもあるような、そういうタイプの作品に惹かれることが多い?

tuki.:あまり意識してないですけど、そうなのかもしれないです。でも、超甘々な恋愛小説や少女漫画とか、面白そうだなと思ったらジャンル問わず読んだり見たりしていますね。

――先ほどもお話にあった通り、作曲はピアノで行ったそうですが、ギターを使うときと比べて違いを感じる部分はありますか?

tuki.:どうしてもギターだと「このコードの次はこのコード」みたいな手癖があるんですけど、ピアノはパターンが無限にあるので、そっちのほうが作曲は膨らむ感じがします。




tuki.『一輪花』Official Music Video


――同じくピアノで作曲された「サクラキミワタシ」は卒業ソングですね。

tuki.:この曲は今の自分の想いをそのまま込めました。私も3月に卒業を控えているので、そのリアルな気持ちを率直にぶつけた歌詞になっています。自分自身の経験すぎて、私のことを知っている友達には恥ずかしいので、卒業してから出したかったなって思います(笑)。

――でも、共感する方も多いんじゃないかと思います。

tuki.:そうですね。卒業シーズンなので同世代の中学生だけじゃなく高校生とか、幅広い方に聴いてもらえている気がします。




卒業を控えた今の気持ちです。これがワタシのリアル。


――先ほど、この3曲とはまた違ったタイプの曲もあるとお話しされていましたが、例えばどんな曲があるんですか?

tuki.:次に出そうと思っているのは、恋人にブチギレて、地獄に落ちろと思ってる、みたいな曲とか。

――振り幅がすごすぎて、めちゃくちゃ気になります(笑)。

tuki.:普段は思っていることを口に出す機会ってあまりないですけど、歌でなら叫べるというか。それがすごく気持ちいいんです。まさしく「サクラキミワタシ」は自分の気持ちそのままなので、歌っているとちょっと切なくなったり。

――普段はあまり自分のことを話すのは得意ではないタイプですか?

tuki.:本当に仲が良い人には話すけど、どちらかと言えば人から話を聞くことのほうが多いと思います。

――今後、ライブはしてみたいと思いますか?

tuki.:いつか曲数が増えて、そのときもいろんな人に届けられていたら、ライブはしてみたいと思っています。でも、まだ想像が全然つかないので、具体的に考えたりはしていないんですけど。とにかく今は、本当に歌うことが好きなので、死ぬまでゆるゆると音楽を続けていけたらなって思っています。

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